2008年10月9日木曜日

煌々

今夜は月がきれいです。

昔、誰だったか、夏の夜に降りしきる雨の中、その白い絹雨を落とす分厚い雲の頭上には煌々と輝く月が在るといってました。

光は見えなくても、月は在ると。

もう、3年以上も前。私は南の島に住んでいました。

21世紀だというのに、その島にはたくさんの神話や不思議な話が生きていて、時々、話す言葉から白い煙のように浮き出ることもありました。

今夜、なぜか、ウズ、という名前の、まつげの長い女性から聞いた話が思い出されます。

「この島には、不思議な池があって、見るたびに色が変わるの。ある日は海のような青、あるときは血のような赤色、森のような緑のときも、透明なときもあるの。私も何度もみた。色が変わるのを何度も見た。昔、気味悪がった村の長が、池の水を全部汲み取ったこともあるらしいの。一滴残らず。でも、雨も降っていないのに、翌朝にはコンコンと水をたたえていたそうよ。地下水もないはずなんだけどね・・。地下水があれば、こんな水不足はないはずなんだけど・・。その池だけは枯渇しないの。

信じられないでしょう?私も、実際に見るまでは信じられなかった・・」

すべてが真っ白に見えるほどに、言葉すら蒸発してしまいそうなほどに強烈な光がふりそそぐ中で聞くその話は、もうそれだけで本当のことのような気がしていました。

でも、実際に、森を分け入って、その、不思議な池まで連れて行ってくれましが、私にはただの緑色に淀んだ沼にしか見えませんでした。

次の日も、その次の日も見に行きましたが、やっぱり、ただの沼でした。

「普通じゃん、ね~~・・」

そう思って、池に背を向けようとした、そのとき、頭上で鳥の鳴き声と共にバサバサという音がして、数枚の葉っぱがひらひらと揺れながら池の中央に落ちてきました。あ、と声にだそうとしたその瞬間、一筋の光が差し込み、白い埃がその筋の中に浮かび上がり、池に浮かんで揺れる葉っぱを白く照らしだし、私はというと、ただ呆然とその光をみつめていました。

どうしてだかわからないけれど、そのとき煌々と光る何かが確かに見えたような気がしたのです。

0 件のコメント: